ブックタイトルgakuto
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gakuto
88に灰色の暗黒の世界と化した中を、眼をあけてあたりを見回すと、近くの堀のそばには、たれ下がった電線に吹き上げられた民家の布とんが数枚ぶら下がっているのが見えた。 光った瞬間、この軍隊目当ての直撃弾だと思った私は、異様な光景にここだけではないらしいことを感じた。土煙の暗い中で皆の姿がはっきりしない。母の帯で作ってもらった、その日が最初の救急袋兼通学カバンが戸口にころがっていた。幅広のたすきの肩のあたりがプッツリと裂けていた。次第に友達の動きが見えてきて、かかとが深く切れている人、その他全員どこかしこと傷ついている様子である。私の胸のあたりにも誰の血だか飛び散っていた。ともかく傷は負っていなかった。「お母さんー」「誰かー」「助けてー」さまざまな叫び、うめき声が重なり合い、あたりを走り回る気配もはっきりしてきた。私達の担当の兵隊さん、多分「鈴木さん」といった人が、大声で「早くここを出なければいけない」と叫び、東練兵場の方に私達を誘導していった。はだしのまま必死で走った。逃げ場所を山と決めた大勢の人達と一緒になった。山にたどりつき、やっと屋根つきの小屋に避難したものの、「元気な者はいないかー」の声に、私ともう一人誰かさんは直ちに山を下りて指示の場所に行った。そこには「川本さん」が苦しそうに横たわっていた。建物の下敷きになったのだろう。すでに眼は閉じたまま、「ガポッ」と血を吐いた。どうするすべも分らない。水たまりにハンカチを浸し、それを胸に当てた。二度、三度、血を吐き続けた。すぐ近くを二部隊の兵隊さん達らしい人がトボトボ山に向かって歩いていた。見れば殆ど丸裸で、皆皮膚が焼けただれて皮がベラベラ垂れ下がっている。皆ふくれた顔で判別さえつかない。帽子を被っていた頭の上半分は丸く段になっていた。何十分後であったろうか。遂に川本さんは動かない人となったのだ。小屋には又一人の友が運ばれてきた。「山岡さん」であった。いつもの大きな眼は、ただうつろに見開かれたまま苦しむ様子もない。 しかし日没を待たず彼女も死んだ。駅構内の石炭を積んだ貨車に火が移り、夜通し天高く燃えさかり、そ