ブックタイトルgakuto
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gakuto
123 下敷きとなった講堂からゆく。それらの遺体は、同じように焼け焦げており、両手を上に頭をかばった形で、顔は苦痛に歪んでいた。一瞬にしてこのような姿に変わり果てた人々の無念さを思い、歩きながら私は余りの惨さに言いしれぬ怒りがこみ上げていた。 水の都といわれた広島の七つの川(現在六本の川)に架かる橋は、大半が破壊されたり焼け落ちていて、私は焼け残った橋を探しながら、随分回り道をして歩いた。途中、天満町にある本家の辺りを通りかかると、焼け跡の片付けをしていた従兄弟に出会った。義兄も一緒で、被爆後はじめて身内の者に会った私は、こみ上げる感情を抑え切れず、思わず泣き出してしまった。 ようやく小河内町のわが家の焼け跡に着く。あの朝出掛けた時の家は、見る影もなく完全に灰燼と帰して形も何もなく、しばらく呆然と立ち尽くす私であった。父の工場の御影石の大きな門柱だけが倒れることなく建っていて、唯一わが家の跡である標となっていた。「お母さん、ただいま」。思わず大声で呼んでみた。母と姉が防空壕から飛び出して来た。「あんたは、生きて逃げられたとは思えなかったよ。よう無事で助かったね」と、母は顔をくしゃくしゃにして泣いて無事を喜んでくれた。 私の父は、普段ならわが家の事務所に出勤している時間であり、爆風で西側に倒れた建物の下に押しつぶされていたであろう。しかし、その日は福山に出張のため朝早く出掛け、山陽本線の本郷駅の辺りで閃光を見たという。仕事を終え、急ぎ引き返したものの、広島市内には入ることができず、一夜を近郊で明かし、翌日、焼け跡に帰ったそうである。通り道に転がっている女の子の遺体を見る度に、もしや娘ではないかと、一体ずつ確かめながら帰ってきたという。爆心地近くの、ほぼ一キロメートルの所にあった学校にいた私が、よもや助かって元気でいるとは……。思ってもみなかったそうである。 家では母が廊下の掃除をしていて、倒れた家の隙間に身体がはまり込み、運よく命拾いしていた。姉も妹も、家で被爆したが軽い怪我で事なきを得た。当時の