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概要

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140 私は女学院大学を卒業した年の夏に、米国の大学から奨学金を受け、渡米した。その年の三月一日に米国の水爆実験がビキニで行われ、島民が殺傷され、日本人には魚の補給がなくなり、環境破壊、おまけに日本人船員たちの死傷があり、一大事件として騒がれていた。目的地に到着するや記者連に囲まれ、この事件に対する私の意見を求められたので、正直にはっきりと私の考えを説明した。早速、大学の私の郵便箱には無名の脅しの手紙が来るようになった。 この経験は、被爆者として米国での私の責任は何であるのか、身の安全のために口をつむぐか、あえて公式の場でも発言を続けるか、恐怖と孤独感で数日間苦しんだ。結果として、自分がヒロシマを語り続けることが私の使命であり、責任であり、学生や家族を犬死させないだけでなく、核時代の到来の意味を世界の人々と共に語り合い、核兵器廃絶の目的に向かって運動すべきだという自覚を強くした。 私たち被爆者は、核兵器を、人類と共存できるはずのない許されざる悪と考えている。核兵器には人類と文明を滅ぼす可能性があるからだ。近代の核兵器は最初に広島に落とされた爆弾の何千倍もの威力を持つからこそ、私たちは核兵器の全廃を強く求めている。それは理想であり、未熟な者の考えだと言う人もいるだろう。でも、今日では、核兵器開発に必要な技術的知識や経験を持つ軍事関係者さえも核兵器撲滅を支持している。 奴隷解放、植民地主義の終わり、アパルトヘイトの終焉、アメリカの女性解放運動・市民権運動など、過去における偉大な社会改革の動きを思い起こしてみよう。これらの運動は最初、数人の志から始まり、人々からの嘲笑を受けながらも、ついには、打ち勝ってきた。これらの運動と同じく核兵器撲滅は、私たちの子どもたちや子孫に未来を保障するという倫理上の問題に基づいている。 私は、高校生のとき、世界教会会議の報告書を読んだことがある。そこに書かれている平和の定義を読んで、強く衝撃を受けたことを覚えている。それは、「平和とは全ての人に正義をもたらそうとする努力の