ブックタイトルgakuto
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gakuto
2息子なら帰って来ると思っていました。 それが、夕方になっても帰って来ないんです。私はいろいろ仕度をして家で待っていました。私の兄が横川まで行ったけれども、火が燃えていて、とても街へは入れない。祇園から牛田を回ったが、火でどうすることも出来なかった。そう教えてくれました。 翌朝、私は五時に起きて、山口さんという人と行ったんです。肇は県庁の疎開を手伝うと言っていたので、水主町のほうから行きました。 川べりをずっと通って土橋まで歩くと、電車がそこで原爆にあって、立ち往生していました。電車の中へ入って行くと、通路には人が折り重なって倒れているんです。生きている人が、「奥さん、お水をください」というんです。「肇さん、お母さんが来たんよ」 と叫んだのですが、息をしている人が、「お水をください、お水をください」 というばかりなんです。 前と後ろの二つの出入り口から叫んでみましたが、息子はいません。「お水をください」 といっている声も、それは息子じゃあない。少しずつ水を分けてあげました。末期の水ですよ。それがよかったのかどうか……。 日赤が見える所まで行きました。……焼けてしまって、どこがどこともいえないんですが。『一女』と書いた板切れがありました。その一女の女学生さんが、ズラッと並んで、倒れて死んでいるんです。こうやって、必ず隣の人の耳や手を掴んで、上着もなにもなくて、パンツのゴム筋だけが残って。うちの子も、こんなになって死んでいるのだろうかと思いました。 土橋の停留所から、かなり行くと、「緑井の人はおっちゃあないですかねー」 と声がします。肇の同級生で二中へ行っている、タメヒロススムさんでした。 あっちもこっちも死体の山なので、どこへ行くの