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概要

gakuto

146早く市外へというので、平素頼んでおいた廿日市のお寺に行くことにした。仕度といっても、着のみ着のまま、女では、あの悲惨な中をとても歩けそうにないからとの思いやりから、その夜、母を自転車の方に、お棺を傍のリヤカーにのせ、弟と私で押し、父は召使と、小さな車に日用品を積んで引っ張り、避難民の格好よろしく皆実町をあとにした。 七日の夜というのに、まだあちこち、燃えたり、くすぶっている。路は狭く、転んでいる人の気配、川には船が来てる様子。死体を焼くのか、一団が火を囲んで歌っているのもある。流星がすっと流れては消える。母は、あれは久衛だろう、今のは武子だろうなどとつぶやく。 一行は何も語らず歩いた。己斐に出てやっと一休みして、また行進。やっと草津までたどり着いたが、これ以上歩けそうもない。父が教専寺に行き、宿をお願いしたら、奥様は快く、「ちょうどいいとこでした。宅の坊も今朝亡くなり、お通夜しているから、さあ、つれて上がって下さい」といわれ、救われた気持で有難く感謝した。 御内仏の間に、一策の遺体も一緒に並べてお経をあげて載き、戒名も策信童子と戴いた。御通夜。 その夜、妹に会うことが出来たので、寝てはいたけれど、無事を喜び、母も一安心したようだった。母はその方につききり。 翌八日、二体を車に積んで焼場に行く。死体は山と積んであるし、いつのことになるか分らないといわれるので、穴を掘って安置し、あとを頼んで帰る。翌朝、父と骨拾いに行ったけれど、ひどい混雑でどこにどうなったか分らない。これでしょうといわれるくらいのことで、父とともに口惜しがったけれど、どうしようもない。 それ以来、お隣りの庫裏においてもらった。妹を引きとり看病に専念。妹は電車で八丁堀に近づいた時、パッと光り、油のようなものが飛んできたので腕でさえぎった(顔と腕を火傷)。電車を降りた時には手に持った物は何もなく、まわりは燃えていた。家に引き返そうと思ったが、危険だからと止められ、それから