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gakuto
151 熱い、体が焼けるところへ行った。もう死体はどこかへ運ばれていた。兵隊さんがタンカで運んで出たそうである。私は思わず懐中から彼の最後の形見のネームを取り出し、静かに見つめて空をニランダ。そして、彼の冥福を心から祈った。私は、彼のネームをまた、大切に懐中深くおさめた。前記の田村君は、長男の同級生の田村享君で、中島町から草津町に疎開し、常に登校を共にしていた親友で、父は島の郵便局勤務であるが現在は出征中で、一人息子とのことである。形見のネームを母上に届けた。母上は涙を流して喜んで下さった。似島には夏の夕日が遠慮なく照りつけ、一種異様な臭気と熱気がただよっていた。死の直前のウメキ声は、そこここの足もとに絶え間なく起こっている。全く地獄絵そのままである。 私はまた急いでわが子のそばへ帰った。 「弘明や、お父ちゃんが来たんだ、シッカリせよ、きっと早く治してやるから」と、力強く耳もとで叫ぶと、少しばかり目をあけてうなずいたらしい。顔面は全部火傷、頭部(帽子のきわより)にだけ頭髪が残っていた。手、腕、胸、足のそこここを火傷して、手の皮は両手ともブラブラで、ボロを付けたようにさがっていた。なんと云っても十四歳の中学一年生のヤワラカイ皮膚で、重労働もしたことのない体なので、熱湯から引き上げたような状態で、手のつけようがないと云っても過言ではなかった。 わずか二尺先の隣りには、別の患者がうめき声を立てている。同室患者が次々と死んでいくはしから、また、新しい重症患者が運ばれて来る。室内は、屋根のトタンの熱気と、患者の臭気と、火傷の腐敗とにより、一種異様な臭気がただよっている。火傷の跡にははや白いウジがはって、その上にハエが一ぱいにたかっていた。 長男は昏睡状態だが、苦しいのか、寝返りをしたがる。つかむところがないので、むしろの外側から軽く起こす。寝台もなく、粗末な部屋で、これも当時としては如何ともし難い。水を要求するので、竹製の食器で水を少しやる。周囲で十三、四才の同年輩ぐらいの少年少女が、両親の名を呼んでいるうちに、次々と物を云わなくなって絶命する。