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159 遺骨を蚊帳の中に しかし、熱が上昇して取れず、鼻血を出し、身体に血斑をあらわす。医師はただの葡萄糖、ビタミンの注射をして体力の補強をはかる。ところが、注射口より血を吹き出してなかなか止まらぬ。どうも様子が変であり、医師に輸血をしたらと相談したが、こんな病気に輸血は駄目ですと云う。熱が高いから、もし脳膜炎でも起こしてはと、看護婦に云って下熱の注射をすると、一時は熱が下がるが、すぐヒドク悪寒を伴って熱がもとに還る。その苦しみは視るに耐えない。 やがて熱は四十度を越す。田舎のことであり、また終戦間際の混乱で、到底氷など手に入らず、井戸の水で冷す。冷す手拭を交換のたびごとに、理髪屋へ行ったように頭髪がカタマッテ抜けてくる。全くどうしたのかわからない。医師に相談しても医師もただ考えているだけである。 後から考えると、それも無理のない話だ。原爆が人体にどんな傷害を与え、また、それをどうして癒すか、なんかは、世界の何人も知っていなかったろう。ましてあれが、原子爆弾だったなんてことが、その当時われわれにはちっとも知らされておらなかったことだ。 信男が死んだ八月二十八日以後九月に入ってから、ヤッと白血球が少なくなってどうとか、お灸がよいとか、世の人が云いはじめたくらいだから、私としては医師をせめようとは、現在でも少しも思うていない。ただあの原爆を落とさせ、罪咎のない無垢の女子供を数多く殺させたもの、国民をこんな無暴の戦いに追いやった奴ら、また到底敗戦の止むなきを知りつつ国民をこの土壇場まで追いやってしかもなお終戦の決を下さず、荏じん苒ぜん日を送ってグズグズしておった責任者の奴らが、たまらなく憎くて憎くてたまらない。 高熱にうかされている時、信男は、「僕も一中の生徒だ。沖縄の中学の生徒にまけるものか。それ突っ込め、万歳万歳」と叫んだものだ。敵と盛んに戦っている夢を見ていたのだろう。 学校が、もし校舎が焼失した時を慮って、その蔵書を三、四冊ずつ生徒に配けてあったのを、一時の焼失でなくしたことを、大変気にして、私に向かってよく