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gakuto
160云った。「お父さん、学校へ行って、焼いたことを先生におわびして来てくれ。そうだ、いくらぐらいかなあ。いくらぐらいかなあ」と心配していた。そして「僕がこんなでなければ行くんだが、行けないから、お父さん、代わって行って来てくれ」と頼んだものだ。 「そんなことは一切心配ないよ、焼けたって自分があやまって焼いたのではなく、不可抗力の問題で、学校もこれを覚悟でやったことだから」と云っても、どうしても承知しなかった。 信男が逝くなって、私の受けた傷もヤッと歩行に耐えれるようになってから、信男の香典の一部を学校へ持って行って、先生にわけを話して取って貰ったものだ。 いよいよ、血便を出し、血を吐くようになり、到底これは駄目かなと思われた時、突然血斑の多数出ている舌を長く出して妻に見せ、「お母さん、こんなになっているのはここだけじゃなくて(手で胸をさして)この中もみんなこんなになっているから、僕はもう助からない。自分は先に死んで行くから、どうかあきらめて下さい」と妻に云う。妻は思わず、「いや、お前だけは死なせない。自分もすぐ後から行くから」と云うと、「そんなことを云うてくれるな。自分はもう到底助からないから先に死んでいくが、お母さんはどうか身体を大事にしてください」と諭す。 妻は泣きながら、「お母さんは馬鹿だった。お前を始終怒ってばかりいて、堪忍して」と云うと、「お母さん、何を云うのです。お母さんは、僕を立派な人にしてやろうと思って怒ってくれたんだ。実に有難かった。僕はよく分かっている。お母さん、どうも長々有難うございました。そんなことは一向心配しないで下さい」と云う。 そして、側にいる一人一人に、一々適切なお礼とお別れを云った。 最後に、一中の校歌を口の中で静かに歌いつつ死んで行った。 傍についていて看護する私たちの気持、引きちぎられるような切ない思い、これがどうして忘れられよう