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概要

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165 沈黙から語り部へ閃光が、働きざかりのおやじと長女と住むところを奪い去った。全身火傷やら栄養不良の生き残り家族が、焼け跡へもどってきた。「あんたらを一人前にするまでは、何とかせにゃー。ほいじゃが、どうしたらええんかいねー」、相談相手にならぬ子供らのまえで、涙をふきふきお袋のひとりごとが続いた。焼け跡の遺体をかきわけて家族をさがし回り、そのあと十年たって背中からガラスが出てきたりしたのに、大病もせず、眠る姿のまんまの大往生であった。なにかの力をいただいたと思わずにはおれない。 それからは、生きることに精いっぱいであった。ある日の夕方、あした食べる米がないので、隣りの家へ米を借りに行った帰り、「こりゃあいけん」と思った。夜学へ転校した。むつかしい就職も、天の助けで見つかった。昭和二十三年、勤め人暮らしの始まりだった。ある時、仲間から上司がこんな話をしとるということが耳に入った。「○○君は原爆でからだが心配じゃから、大事な仕事にはつかせられん……」。それからは、被爆の体験ばなしを一切しないことにきめた。動物のように、人に弱みはみせまい。嫁さんも来てがなけりゃ困る。火傷のあとがぐずついて、朝からだるさを骨の奥に感じる日が続いたときは、自分に「原爆とは関係ない。関係がない」と言いきかせて、意地で絶え通した。自分だけはなんとかなったが、子供への影響は手の届かぬ所だった。二人の子供が元気に育って、それぞれ一人だちしてくれた。ほっと、世間を見渡す気持ちになった今、身をまもるために沈黙してきた自分を弁護したい気持ちがある一方、多くの死者の身代わりで生かされているのかもという後めたさみたいな気持ちとが、交錯する。 本棚の奥から長田新氏編の「原爆の子」を出して読みなおして、息がつまった。自分も体験した惨状と、嘔吐をもよおす嗅いがよみがえってくる。次が読めなくなった。一日交替だった建物疎開当番の一年生が、黒こげになって、水をほしがるからだの置きどころもなく次々川へころげこみ、溺れていく姿が、目のあたりに浮かぶ。 どうやって彼らは救われるのか。