ブックタイトルgakuto
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gakuto
176渡すと、たくさんの人が逃げてくるのが見えた。私の所にも頭に大怪我をした二十歳くらいの青年が逃げて来て、ゲートルで傷口を巻いてくれと頼まれたが、頭の皮がめくれた状態で、それを伸ばすようにして巻いてあげたが、その時の凄惨さは今も忘れられない。 そのうち市内の各所から煙と火の手が上がり、大小の火炎が一つとなってやがて街並みは見えなくなった。自分たちが爆撃されたと思い込んでいただけに、想像以上の被害にどういうことになったのかさっぱりわからなくなった。避難した級友もいつの間にかいなくなったので山を降りると、現在の国前寺の前あたりで担任の柏原先生に出会った。先生は散り散りになった生徒の安否を確かめようと駆けずり回っておられたが、やがて各自帰宅するよう指示されたので、芸備線の通学仲間の伊藤司君と一緒に家に向かった。 熱線による火傷で、顔、首、左腕、背中の一部は水膨れとなっており、特に背中は焼けつくように痛く、中山峠の伊藤君の家まで走るようにしてたどり着いた。伊藤君のお母さんとおばさんは、二人のひどい火傷を見てさっそく塩水をつくり、タオルに浸しては頭から順次、患部にあててくださった。その度に飛び上がるほどの激痛を覚えたが、数分して痛みはとれ、食用油を塗ってもらうと、すっかり楽になった。大事にかかえていた弁当を腰に巻き、お礼を言って下深川のわが家へ向かったが、広島の上空は物凄い暗雲が立ち込め、激しい雷雨のようだった。 中山峠の途中で柏原先生が追いついて来られた。遮蔽物が無い芋畑なので全員が火傷をしているだろうと、生徒の身を案じておられた。先に帰った岡(重太郎)君の家に寄ってみようと言われるので、一緒に矢口の同君の家を訪ねると、布団にうつ伏せになっている岡君の背中の水膨れの皮膚を近所のおばさんが剥がしている最中で、ひどく痛がっていた。励ましの声をかけてわが家へ急いだ。 市の中心部から十二キロ離れたわが家も、窓ガラスが割れ、天井が浮き上がったりしたので、家族は並みの爆弾ではないと心配していた所へ、悠然と私が帰って来たので母と姉は涙して喜んでくれたが、火傷のひ