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概要

gakuto

183 回想・運命のいたずら(千田町の県工で) 広島駅から毎日の通学経路を歩いて千田町の学校に着いたのは、午前八時少し前だったろうか。早速学校での用事をすませて本館南側に出たところ、樽佐君が駆け寄ってきて用事は学校の都合でこれからだと言う。 その時、「B―29が来たぞ! 落下傘だ、落下傘だ」と叫ぶ声を聞いて二人は本館西側の通路から空を見上げ、樽佐君が「落下傘はどこだ? どこだ?」と叫んだ直後だった。強烈な閃光が差し込んできて、私の身体が包み込まれるように感じた一瞬だった。それから息もつかず、ドン・ゴーと、足元の地球が壊れ始めたのじゃないかと感じる地響きと地鳴り! 危ない逃げよう! そう直感して反対方向に足を向けたら、一足早い樽佐君の後姿がチラッと見えた。猛烈な爆風が押し寄せてきた、辺りは真っ暗闇、急に私の身体が浮き上がり、地面に叩きつけられ、身体の上からドドンと強い力で押えつけられ、息苦しい……(私はこのときから、意識不明になっていたらしい。三十分間位だったろうか) 私の身体の上でゴトンゴトンと小さい音がしているのに気がついた。懸命にもがいて見たら、頭上部分は土壁、板壁らしく頭で押し上げるとブヨブワ動くではないか。やっと空が見える所に出られた。助かったのだ!(親友は救出できるか) 喜んでいる暇はない。樽佐君はどうしたろうか、私のすぐ前を走っていたはずだ! 私が瓦礫の中を覗き込んで「樽佐よう! 樽佐!」と呟きながら探していた所、上級生が、瓦礫の中から小さな泣き声を聞いたと言う。瓦礫や柱など取り払い、やっと親友と顔を合わせたのだが話の出来る樽佐君では無くなっていた。間もなく樽佐君は息を引き取り帰らぬ人になった。もしも、樽佐君が一歩遅れて駆け出していてくれたら、私と一緒に脱出できたのに、残念だ。(防空壕で) 次の空襲に備えて防空壕前に集合した。 先生、生徒、それに海軍関係者らしい人達合わせて