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概要

gakuto

190自分の部屋は窓ガラスの破片なんかでメチャクチャでした。だけど、そんな状態なのに絵だけは持って逃げようとしているんですよね。それまでに自分がかいたものを。ほかのものならいつでもそろえられるけど、自分の絵は二度と調達できない、と思ったんですよ。その時の何点かはいまでも持っていますよ。 様子を見に一人で比治山橋の手前まで行ってみたけど、火の海で先に進めない。広島中が燃えているわけですよ。ボヤボヤしていると下宿の家にも火がつきそうだ。おばさんと二人で、とりあえず黄金山に逃げることになった。 黄金山の土手のところにいってみると、同じように逃げた人がたくさん並んでましたよ。口々にぼそぼそと話している。みな、悲しいとか何とかの感情は不思議とないようなんですね。茫然自失ですよ。ドカーン、バリバリと音を立てて、広島中が燃えさかっている。五、六時間ぐらいじっとその様子を見ながら「これは戦争に負けたな」と思い始めましたね。 山を下り、また下宿の家に帰ったら今度はおばさんが「あなた、瀬戸田の家に帰りなさい」と言い出した。何でも自分は可部にある親類の家に行くらしい。心細いけど仕方ない。「じゃあ、そうします」と一人で、古里の方向である東に向かって歩き出したんです。(中国新聞「私の道」平山郁夫より抜すい91・6・16)(当時中学三年 動員中、霞町の兵器支廠で被爆)