ブックタイトルgakuto
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191 五十年前のタイムカプセル五十年前のタイムカプセル佃 昭信 夏の平和公園の周囲の樹木は蝉しぐれでした。鎮魂の鳴き声のようです。あれから五十年経ちました。その時、私は旧制中学の四年生でした。動員学徒は学生なので週二日の授業の日が設けられ、教室は造船所内の干拓地の砂の上に建てられたバラックでした。その日は授業日に当り、造船所に通勤後、私達の学級は教室の集まり、担任の先生の姿が見えるまで雑談したりふざけあっていました。その時、異様な気配で窓の外に目をやると、一瞬暗くなり、そしてすぐ巨大な津波のような光と砂塵のうねりがせまり、人々がそれを避けようと駆け出し、物が舞い上がり、小舎が倒れ、それも忽ち砂塵に消えてゆきました。瞬間、私は机の間にしゃがみ胸をはずませました。教室の窓が割れ、屋根が揺らぎ、悲鳴がそこここにあがりました。 「アッ血が」「外に出るんだ」と級友の声で、私は我にかえり大慌てで窓から飛び出し、砂の上を走りました。海の近くまで走り、危険の薄らぎを感じ、後ろを振り返りました。巨大な噴煙が夏のキラキラした紺碧の空に突き進み、広島の空にひろがっていきました。「どうしたんじゃろ?」「火薬庫が爆発したんじゃろ」「ガスタンクが破れたんじゃろう」私達は思い思いに言い合って眺めていました。午後近くになって「広島の街が大火事だそうだ」と伝わり、市内通学の学生たちの気持ちは、物珍しさから心配に変わっていきました。 午後になると、診療所の前の広場が異様な形相、姿の人々で埋まりました。煤けて真っ黒な顔、焦げて破れた衣服、焼けただれた赤身、火ぶくれ、血を流しながら黙ってジッと地べたに横たわっていました。何の連絡もなく時間が過ぎ、午後もだいぶ回った頃、引率の先生から「広島の街が大変なことになっている。今日は帰って様子を見、また明日再びここに集まりなさ