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概要

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217 子に詫びる子に詫びる前岡 清子 茂子が丁度十三歳の時であった。早いものであれからもう十三年たちました。ほんとうに、短かった一生でありました。子を殺し、毎日毎夜その幻を追い、影を求めては泣き暮らす内に、いつしか十三年。頭髪もこんなに真っ白になりました。「子を殺し、親がのこのこ十三年、これでよいものか、毎夜詫びつつ床につく」。あの前夜、空襲警報が出ましたので、お隣の大橋様のお子様と一行五人で、暗闇に手と手を繋ぎ合い、東練兵場を横断して、尾長の天神様の下まで避難致しました。あの晩は星のきれいな夜でございました。空を仰ぎながら、茂子が一段声をはりあげて「お母ちゃん、星がすべる前に、『日本勝て、日本勝て』と三回唱えたら、日本は勝つよ」と申しました。みんないっせいに夜空を仰ぎました。暗闇の中で、子供達の声が、そこここで、「日本勝て、日本勝て」と聴こえてきました。夜も更けた頃、我家へ帰りました。茂子も頭から背へ夜露でびっしょり濡れておりました。その晩は疲れ切ったのであろう、両足を組んで布団の外へ投げ出した寝姿が瞼の裏に残って消えません。六日朝、今日一日で県庁の処の疎開作業も済むと申し、七時頃、勇んで鈴なり電車に乗りました。昇降口の取っ手にしがみつき、顔だけ出して、電車道で見送る私に笑顔で合図しながら、荒神橋の曲がり角に消えて行きました。ああ、これが大切な大切な我が子の今生の別れとなりましょうとは……。 夕べ、疲れた足にあの重い松の配給の下駄をはいて、「お母ちゃん、もう、こんなに下駄がちびたのよ」と下駄のちびるのを気にしながら出て行ったあの姿。人の脇下より半身を出し、首を長くしてこちらを見ていたあの目、あの少し丸めな顔。これが私の目に、胸に焼きついたあの子の最後の姿であります。 ああ! 八月六日午前八時十五分。