ブックタイトルgakuto
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gakuto
220久に滅する事はございますまい。 茂子ちゃん、あなたは差し上げるオヤツも無くしてご免なさいね。いつも大豆の煎ったのばかり。いつかお母様が干バナナを買って来たら、虫がわいていて、それでも、あなたは「おいしいよ」と言いながら食べてくれましたね。あなたはおいしいお菓子の味も知らないで、また女らしい赤い着物も着せてあげられなくて。…… 「勝つまでと、ひもじさをこらえてがんばりし吾子の心の尊さに泣く」 「吾子ありし日の短さをなげくなり、今に在りせば、あれもこれもと」 茂子は小学校の時からお習字の得意な子でございました。市女に入ってからも、溝上先生と申しますお習字の先生に可愛がって頂いていました。先生のお宅が鷹野橋の辺で、学校から帰りにお稽古に寄ると申し、楽しみに致しておりました。 茂子ちゃん、あなたの形身としてたった一枚残ったこの着物は、お母様が毎日肌身につけております。夏は懐にしっかり抱きしめて寝ます。「茂子は母と共に在り」幽明境を異にすれども、心と魂は通じております。仏前には、いつもあなたのお好きなお花をあげます。そうして二人はよくお話をします。あの一瞬ひどく引き離された二人は、月と共に、日と共に、また刻一刻と近づいて行きます。そうしていつか一つに結びつくと思えば、うれしくさえなります。この母に、我が子が受けた苦しみの何倍もの苦しみを与えて下さい。最愛の大切な大切な我が子を助け得なかった責任は、一体どのようにしたら果たせるのでございましょう。積極的に苦しみ続けるのでございます。そうして私は、私の生ある限り、あの子に詫びて、詫びて、詫び続けるのでございます。故 前岡 茂子母 前岡 清子