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概要

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223 トマト あんな無惨な死ではありましたが、今の私の心に帰って来る綾子はいつもニコニコ笑って、私に話しかけてくるのです。 いつも、市女の徽章を胸につけた制服の姿で。故 佐野 綾子母 佐野 貞子トマト末永ハル子 永遠に忘れる事の出来ない八月六日。早朝発令された空襲警報も解除され、日本晴れの空には灼熱の太陽が光っている、気持ちのよい朝でした。照子のお弁当を作り、おやつの豆を煎って袋に入れて、「さあ仕度が出来ましたよ」と言って渡してやりますと、照子はうれしそうに、「もう出来たの、私一寸前の畑に行って見よう」と出て行き、間もなく小さな赤いトマトを一個持って帰り、「お父さん、トマトが熟していたよ、おあがりなさい」と言って、水できれいに洗っている。主人に、「照子、お前すきだから食べて行きなさい」と言われると照子は、「お父さん、おあがりなさい」と話しております。戦時中物資の少ない時なのでトマト一つでもめずらしいのです。とうとう、二人で分けて、「おいしいね」と言っ