ブックタイトルgakuto
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gakuto
224て食べ終わると、「では行って参ります」と勇んだ声と共に近所のお友達と一緒に出て行きました。 これがこの世の最後の別れとなるとも知らないで、「行って参ります」と言った声が、十三年経った今日でも私の胸にはっきり残っております。 そして一時間後、あんなおそろしい事が起きようとは、誰が予想したでしょう。その日中、照子は帰って来るだろうか、どうしているだろうか、大怪我をしている子供を連れている私は、さがしに行く事も出来ず、次々と怪我をして帰って来る人を見るにつけ、立っても坐ってもおられない気持です。数え年七つになる照子の弟は、全身火傷と頭に大怪我をしているのです。家は半分こわれておりますが、幸いに、私は怪我一つなかったのが何よりでした。夜に入って空襲警報の発令中、とうとう、英昭は死んでしまったのです。死んだ英昭を一晩中抱いて、照子はどうしているかしら、死んでしまったのではないだろうか、照子にかぎってそんな事はない、きっと笑って帰って来ると、心にむちうって、まんじりともしない内に夜があけました。 今日は、どうしても照子を探さなければと、三つになる子供を背にして、横川橋を渡って寺町まで行きました。一夜にしてこの焼野原、どちらへ行ってよいやら、方角が立ちません。話を聞けば広島市女の生徒のいた処は特にひどく、人間の黒焦げばかりで、さがしてもわからないでしょうとの事です。七日はとうとう見つける事が出来ません。 八日早朝、ようやく現在の公会堂附近まで行く事が出来ました。沢山の死体の転がっている中に、一人のきれいな女学生らしい子が見つかりました。頭の髪が少し焼けているだけなのです。私は足元の方へ廻り、主人は頭の方へ行って両方からのぞき込みました。私は「あ、照子だ」と思い、「照ちゃんですよ」と言って、足から頭の方へと見て行きました。主人は「顔がちがうよ」と言いつつ、二人でのぞきこみます。その間、二、三秒たったでしょうか、私が顔に目をむけた途端、ぷすりぷすりと鼻から白い泡のようなものが出たと思う間もなく、鼻血がざっと噴出しました。私達の行くのを待っていたのでしょう。「照ちゃん、お母さん達の来るのを待っていたのね。すまなかったね。