ブックタイトルgakuto
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gakuto
225 その日のこと早く来てあげればよかったのにね」と思わず、死体に取りすがって泣きました。なんだか、生きているように思われてなりません。でもどう致しましょう。体は固く、ミイラのようです。手も足もかちかちです。乾したイリコのように、可哀想に、六日の朝から二日、暑い日にあたっていたのですもの。あちこちに転がっている死体を、義勇隊の人達が担架で集めて焼いている中に、照子の死体だけそのままにしてあった事は、悲しい中にもうれしい思いがしました。家に連れて帰って、私等の手で焼く事が出来ました。 あの悲しい思い出が、もはや十三回めぐって参りました。主人は毎年八月六日には、大きなトマトを買って来て、「今年のトマトは大きいぞ。しっかり食べてくれ、あの時のは小さかったけれどなあ」と言ってお供えしております。 幾年たっても、あの朝の元気な声、また、やさしいあの子の気持を忘れる事は出来ません。永遠に私達の胸の中に生きている事と思います。故 末永 照子母 末永ハル子その日のこと池田 良子 光陰矢の如く、十二年の歳月は過ぎ去った。然し、呪うべき悲惨事は、私の胸深く刻印され、瞼を閉じれば、昨日の如くありありと蘇る。 今生の別れ 「嵐の前の静けさ」とは正にこの事か。久しく警報がないのに、前夜は二度もあった。その都度、防空体制を整えるのに骨が折れる。主人の応召後、学徒動員で三菱に勤める長男、市女一年の長女、小学二年の二女をつれて、主婦として私の任務は重大。四時半チリリ……と目醒まし時計も夢うつつ、フト「明日は、六時に家を出なきゃ、七時の朝礼に間に合わないから早くしてね」と言っていた康子の言葉を思い出し、ガバとはね起きた。三人で朝食をとる。何故か康子が一膳