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gakuto
226しか食べない。私は「一寸、麦の入れ方が多かったかな」と思う。「なぜ、食べないの」と言ったら、「今朝はほしくないの。十時には帰るから」と言った。その筈だ。二時間後には、未曾有の惨事が起き、再び帰らぬ人となるんだもの。給仕をしながら、何気なく今日の服装を見た。虫が知らすというのか、こうしてじっと見た着物が、まさか、あの時に役に立つとは、夢想だにせぬ事であった。逼迫していた当時の疎開作業に行く服装、真夏というのに、防空頭巾と鞄を肩に、モンペ、それに昨日から作業で地下足袋、それも十文三分と途方もなく大きい。「不細工でも足元が危ないから、これをはいてね」と言ったら、素直に「ハイ」と言って、玄関で、「行って参ります」と声がした。丁度、座敷を掃除していた私は、「そうそう、大きな足袋をはいた恰好、どんなふうかしら、今日は是非」と思って箒を片手に縁側まで出て見た。表で芳田の伯父さんに、「お早うございます」と言う康子の声がしたきりで、頭の先だけしか見えなかった。ただバタバタと足音を残して。これが今生の別れになろうとは、神ならぬ身の知る由もなく、子供はそれぞれ家を出た。私はホッとした。前夜の警報も何事もなかったと。空襲は夜だけの物くらいに思っていた愚かな母よ。 愛し吾子と涙の対面 母子の縁の如何に深きかを身を以って痛感した。死屍累々とした中に、しかも出ていた上半身何一つ身につけず、あたり一面折り重なって逝った友達にまじって、最愛の康子を見つけた。物言えねど母の懐へ帰ってくれた。見えぬ母子の絆の糸で、よくもここにいてくれた。後頭の恰好だけで、ようこそ康子とわかった事よ、奇蹟とはこの事か。それは、同級の藤井さんが重傷の身を日赤に収容されて、「木の橋の近くに墓があり、松の木の下にいるが、池田さんと末本さんは駄目だ」と言われたと、藤森様に聞き、私も探しに出る所だったので、すぐ同道した。目指すは日赤の藤井様。張り切って行った甲斐もなく、行方不明。改めて県庁前集合地へ、そして川端ぞいに上流へ。近所の久保田の奥様(市女二年のお嬢様を失う)が「この辺全部一年生よ」思わず私は走りよった。そこは窪みのあ