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229 師の愛を思うた。 御幸橋を渡ると警防団の人が毀れた家から机を持ち出しておられましたが、心急ぐままに日赤へ行きました。看護婦さんが人の名を呼んで寝ている人の間を探して歩いておられました。市女の人は来ていないという事でした。市女の生徒一人の消息を聞きたいと思い、御幸橋の西側に机を出して準備をしておられた所へひきかえしました。机に向かって腰かけていた警防団の人の言葉を、溺れる者の掴む藁とも思って聞きました。 「広島に近い田舎、焼け残った民家、学校、そうした建物を探してもらうよりありません。大ていやけどか死んでおられるでしょう」という事でした。丁度その時御幸橋を東から渡って来た芳子位の女の子を見ると、私はあの人に聞いてみようと思いました。 「あの空襲で家が焼けて熱いので、先生が皆さん一緒に死にましょうと言われて皆で川へ下りて行かれて、それきり死なれたそうです」初めて市女の先生と生徒の恐ろしい消息を聞いて息もつまる思いが致しました。毀れた家もすぐなくなって焼野原になりました。千田小学校は講堂の鉄骨だけひどく曲がって残り、鉄筋コンクリートの学校は焼け爛れ、すさまじい有様に思われました。そのうち空襲警報がなりました。防空壕の中でも市女全滅を聞き、モンペを包んだ風呂敷包みの上に涙をこぼしました。その人は慰めるように、 「決死隊に行っても生きて帰る人もおるのですから、死んだと思うても生きておられるでしょう。それに万代橋まで逃げて兵隊の船に助けられて二、三人は島へ渡ったという事ですからその中におられるか判らないですよ」 「それは奇跡を信じようとする事です」 言葉でうち消すような事を言ってもその人と富士見橋で別れて西へ歩いて行きながらも、その人が話された幸運の二、三人の生徒の事が私の心に時々浮かんで離れませんでした。 鷹の橋では市女の生徒の死体のある場所を人より聞いてぼつぼつ歩きながら、市女全滅は動かぬ事実と覚