ブックタイトルgakuto
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gakuto
240う岸へ泳いで渡る人もいましたが流されて行く人もいました。力尽きたのか若い人が流されて行きました。その人の手をつかんで引き上げようとしたのですが、私も流されそうになり手をはなしてしまいました。その人はポカリ、ポカリと海の方へ流れて行きました。 山の麓はもう火の出ている所もあり、橋は渡れないように綱がはってありました。ノドは渇く眼はだんだん見えなくなるこんな所で死にたくない家へ帰りたいと思っていた時、男の人が二人綱をくぐって橋を渡られました。私もすぐその人の後を追って山へ入りました。後の方でそちらへ行っても安全な所はないから帰って来るように呼んでおられましたが家に帰りたい一心でした。山には沢山の防空壕が掘ってありましたがどれも満員で道端に倒れている人、水を求めている人、真黒にすすけて男か女かわからないような人達がうごめいていました。道がわからなくて山の中をさまよい細い小道を歩いていると一軒の家が見え近寄って家の人に「水を飲ませて下さい」とお願いしました。その人は私の姿をマジマジと見つめて「あんたはひどい火傷をして、火傷をした人に水を飲ませると死ぬると云われているから悪いけど水はあげないよ」と云われてがっくりし、そこへ坐り込んでしまいました。「お家の人が心配しておられることだろう早くお家へ帰りなさい」と杖を下さいました。その人も子供さんが建物疎開の作業に出てまだ帰ってこないので心配しているのだと云っておられました。道を教えてもらい杖にすがりながら重い足をひきずるようにして家の方に向いました。 メチャメチャに壊れた家、屋根が飛んで傾いている家、天井が落ち壁土から木舞の竹が見え、あまりの惨事にアメリカは何を落したのかと思いました。我が家とおぼしき道に入ると四才の妹が私の姿を見てびっくりしたのか泣き出しその声で妹とわかるとやっと帰ったとその場へ坐り込んでしまいました。妹の泣き声で母は家から飛び出してきました。道端に私が坐り込んでいたのをみつけ「悦子か悦子か」と呼ぶ母の声をもうろうとして聞いていました。足首に焼残っていたモンペの柄で私だとわかりあまりの変り様におどろいた