ブックタイトルgakuto
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gakuto
249 この世の地獄官が麻痺し下痢は止まらない。体の衰弱と同時に四十二度の高熱が続き、時々発作するケイレンに苦しみながら十七日を迎えた。苦しい呼吸の中から寝床に起き上り、東に向って遙拜、西に向って合掌「死するのは苦しいことではありません。こうしていればよいのです」と静かに合掌鉛筆書きで「私は死することが一番恐ろしくきらいでした。 しかし今は安心して逝きます。さようなら」の一書を遺して永眠いたしました。一人娘を亡くして私の心の痛手は三十年経った今日も変りません。実に戦争の悲劇です。核は人類を滅亡させます。今思い出してもゾッとします。 いたわしや 戦のために 散りし子は 間近く開く 花の蕾を 母心 と墓碑に刻み、亡き娘の回向をいたしております。巡り来る八月十七日こそ忘れられない悲しい日です。この世の地獄内藤 小梅 「広島市は大変だそうな、晩までに帰らない人は皆死んでいるげな」。と近所の人が気づかって知らせて下さった。私は崇徳中学の長男が心配でたまらなかった。 六日は入市出来ないとのことで七日早朝モンペに運動靴、タオルをかぶって、四里の道を徒歩で小走に広島に向った。 途中道々担架で帰る人、若しや吾子ではないかと、いちいち男か女かと問い、大人か子供かと尋ねたものである。 広島駅の前には電車が三台鉄骨のみとなり、市内一面濛々の煙、道路に倒れている人を踏まないよう気を配って、吾子を探したが見つからない。 そのうち一人がむっくり起き上り、「おばさん助け