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概要

gakuto

252が倒れて来て、身の危険を感じつゝ進むにつれて益々熱気は加わって来る、呼吸は苦しくなり、喉は渇く、手持ちの水筒の水はとっくに飲み干して、止むなく汚染している防火用水槽の水を飲まずにはいられない。 中心地に進む程被害は大きい、目的地である雑魚場に向った。そこは定めし大惨事が起きているだろうと思いつゝ行って見ると、案に相違して一寸した広場があり、誰一人なく只脱ぎ捨てゝある上着、戦斗帽、水筒等があちこちに散乱しているが、地の底へでも吸い込まれるような静けさ、静寂とはこんな境地を云うのかと夢うつゝの思いであった。 作業隊員は果して何処へ避難したのだろう?、究極の場所とすれば比治山であろうかと、比治山に向う途中、一中のグランドに立ち寄ってみると、町の水槽にひどい傷の男が二人上半身をその中に突込んで死んでいる。グランドには一面にさつま芋が植えてあった。人影は中学一年生と一般人百五六十人位いたであったろうか、その殆んどが死の直前であった。近づいてよく見ると顔は紫赤く腫れ上り、既に仮死の状態、何とかして元気な人だけでも救出したく思ったが、われわれには別の任務がある故、現状をその侭にして新しい任務に向ったのである。 しかしたとえ駄目であっても、あの時何とか出来なかったものかと今もこの事に心残りがしている。広島一中一年生 今井  伝 遺族 今井 健三