ブックタイトルgakuto
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gakuto
280 誰かが、「早く、防空壕へ!」と、叫んだ。 外に出て、南の空を見上げる。誰もが言葉を失つた。この世のものとは思へない巨大なる阿鼻狂雲。 直ぐ近くの様でもあり、何粁か離れている様にも見える。誰も防空壕に入ろうとしない。立ち竦んでいる。時が過ぎる。「あれを目標にくるぞー、山へ逃げろ!」 我にかえる。ぞろぞろと、それでも急いで畔道を、山の方へと避難する。 暗く黒い雲が、北西方向に広がって来た。 異常に太い雨脚が 〝ぽつっ?と、ひかる。躊躇ひながら降ってくる。 何時もの夏の雨とは違う。潰金が落ちてくる。草の葉に当たる音が大きい。 白いシャツに、薄黒い雨跡が残る。狂雨。一時間余が経過。「広島市内で爆撃被害あり」の断片情報。三菱重工業広島製作所から、その日疎開作業に出広した社員がいる。救援隊の一員に指名される。「結飯、二箱」 「擔架、二台」 小型トラックの荷台に乗る。 祇園町出発十時前。三瀧附近までしか、車では行けない。 降りて歩く。 対向するのは被害者のみ、皆一様に直撃弾をうけたと言う。顔は焼け爛れているが男か女かどうにか区別はできる。着ている物が少ない。 両手の皮膚が、肩から焼け剥がれ手首からぶら下がっている。 「直撃弾を背に受けた」と、脊中全面の焼傷を見せる人。 蹲る人が次第に増えてくる、救援隊員の言葉は少なくなつてくる。 「水が欲しい」と、言う重傷者が多い。水を持って来なかった事を後悔する。「むすびを―」と、言う人もあるが、目的地につくまで、差し出すことはしない。 まともな 人間らしい姿は、我々八人だけなのに気