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gakuto
282『警戒警報解除後、建物を出て整列した時だった……、川に飛び込み、岸傅いに友達(同町)と溯るうちに、雨…。橋の下で止むまで待つ間に、友を見失う……』 体験を聞く。一心に話す。首から上と、両手がひどい。父が書いた胸の名札も、汚れて読めない。『水を飲むと死ぬと言はれたので、我慢する』と言う。 父は何処からか車を手配して来た。可部町着、六日、六時過ぎ。 折好、軍医がいた。自宅に逗留していたのだが、薬もなく、治療もまゝならない。 次の日から、酷い高熱。アイスキャンデー屋に駆け込む。氷と違って融けやすい。 何度も買いに走る。出来るのを店の前で待つ事も多い。『米と交換』の時もあつた。 寺院、学校、も被爆者で溢れる。地獄繪は、町へ、村へと拡大してきた。 多くの人は、閃光と火炎に糜爛した顔の膿の中を、蛆蟲が這い巡るまゝで横たわる。 帰宅してから、二日経つ。 弟は、『日本刀を持つて来て!!』と、 憤怨、々怒の姿に變る。 学校、友人の事も、案じ、話す。出来る限りの手当てをする。 その夜、足先から次第に体温が抜けてゆく。 最期には、 「お世話になりました」と、はっきり言い残し、 昭和二十年八月九日、早朝、母の膝の上で、逝く。 (享年 十二歳)