ブックタイトルgakuto

ページ
304/326

このページは gakuto の電子ブックに掲載されている304ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

gakuto

290体を起こそうとするが、皮ふが突張った感じで容易に立てない、両手で支え立ち上がったがバランスがとれない、再びしゃがみこんでしまった。 そばに座りこんでいる級友に「わしの怪我はどうなっとるや、どうも皮ふが突っ張って赤くなっとるんじゃが顔はどうかいの」と尋ねると「顔は紫になっとるで、わしのはどうなっとるかいの」と言われ、同じような負傷していることを告げ、とりあえず防空壕に入るべく助け合って、歩いた。それにしても人影が少ない校庭にいた級友は何処へいったのかわからない。大変不安が募ってくるが、防空壕の中にいる級友も決断を躊躇っている。私は「芸備線方面は一緒に行動せんかい」と言ったところ二人級友が賛成してくれた。 顔が突張って話にくくなってきた。光線を受けた皮ふが膨らんで紫に変色して痛みが増してきた。いずれにしても治療を受けなければと、宇品の陸軍共済病院を目指すことになった。 防空壕を出ようとして、入口の柱に手をかけたとき、右手の甲の皮ふが破れ透明な液体がこぼれ落ちた。 校門を電車どおりにでると、とんでもない光景が飛び込んできた。 比治山橋方面から避難してくる多くの人々の殆んどが怪我をしており、半裸全裸で血だらけの人、皮ふがめくれた人、顔が黒ずんで幽鬼のように何か叫んでいる人など、まるでこの世の地獄だった。 我々もその流れに交じって宇品方面へ歩き始めたその時、電車の軌道附近を物凄い勢いで暴走してきた馬車に、思わず立ち止まった。馬は背中から腹部にかけて厚い表皮がぶら下がっており、馭者のいないまま後輪がはずれた車台を引きずりながら、大音響をあげて走り去った。 私は、思わずつぶやいた「こりゃー焼夷弾どころの話じゃーないで」両君もうなずいていた。兎に角陸軍共済病院で治療を受けなくてはという使命感のような気持ちで歩きはじめた。その間も負傷した人がひっきりなしに逃げて行く。 学校の塀沿いに歩いて民家の倒壊した状況が見えてきた。下敷きになった人だろうか、うめき声が聴こえ