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概要

gakuto

295 生涯で一番長い一日 (この場面については、今でも思い出す度に、一入の感慨が湧いてきます。当時主食の米に限らず、食料が手に入らない状況であったことを考えると、多分自分達が用意してきた中の一部を分ち与えてもらったことだろうと思う。マントの中に手を入れて、まるで魔法のように手渡された白桃そしてその味、今でも思い出して目頭が熱くなるシーンである。二人の学生さんのお名前を尋ねることもできなかったが、或いはあの白桃によって、私の現在があるのではないかと、運命的なものを感じると同時、感謝の気持ちは色褪せることはない。) 目標である広島駅前にたどりついたが、桃をもらった学生さんの情報のとおりであった。松原町方面を見ると、比較的火勢はゆるやかで見透しがきくようである。三人で相談した結果、横川方面に向い長束から矢口を目指そうという大まかな計画で動き始めたが、相当体力を消耗しており、三人共成功の可能性を信じていなかったと思う。 腥さい熱風を感じながら、西へ西へと向かう途中、我々と逆方向へ向かう多くの負傷した方々とすれ違うが、感覚が麻痺してしまったのだろうか、自分のことで手一杯だからであろうか、何の感情も湧いてこない。 段々、足が疲れて靴が重い、帽子でさえ重く感じる。しばらく歩いて靴も帽子も脱ぎ捨ててしまった。 右手饒津神社付近の線路上貨物列車が燃えている。よく見ると横倒しになった車輌があり、今更ながら爆風の凄さを感じさせた。 常葉橋を渡るべく向かったが、警防団の人が、アスファルト部分が燃えているため通行できないといっている様子で、どうやら避難する人々は鉄橋方面へ斜面を昇っている。我々も同じように行動した。 鉄橋の枕木はところどころ燻っている。三人共顔を見合わせて戸惑っていたが、A君が押し出されるように渡り始め、私そしてB君と続いた。 枕木の間隔は四十センチ位だろうか、遅々として足が進まない、燻っている場所を避けながら最後の力を振りしぼって渡り続け、先程脱ぎ捨てた靴のことを後