ブックタイトルgakuto
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23 ピカ・ドンの道つめていた。 郷里の方角が同じであった四、五人と共に、帰れるところまで行くことにして、壊れた建物の中から靴を探し出し、ゲートルだけを巻き直した。不安といった感情さえない身一つの、当てがあるようで無い、しかもその行程も判らないまま、吉島の寄宿舎をあとにした。 塗料工場の燃えさかる中に通ずる近道を避けて、元安川沿いの道路へ迂回したが、ここでも黒煙が立ちこめており、時折炎舌がなめるように土手道を襲っている。ここを通るしか行く道がない。一瞬の判断は誰もが同じ思いであった。身をかがめ背を低くして走り抜けた。 南大橋を渡った路上や川瀬には、人々が身を寄せ、かたまりあうように溢れていた。その誰もが全身火傷を負い、布切れが肌にへばりついている姿、顔や手足など裂傷の血を流している姿ばかりである。 そして、誰もがうめき叫んでいる。男も、女も、大人も、子供も、学生も。「兵隊さん、助けてください」「兵隊さん、助けてください……」「水を下さい」「水を下さい……」 繰り返し、繰り返し、この言葉を絞り出すように叫ぶ。この音色のないくぐもった声は、死への悲歌に似た、あまりにも大きな響きであった。 千田町の大通りから電車路に沿って市役所前を通り、紙屋町の交差点まで来た。道々に見た悲惨で残忍な情景は、ようやくにして、はっきりと、広島の街々は全部何ものかによって破壊され焼きつくされてしまったのだと知った。いたるところで四方に散じて行く人がいる。識別できないほど火傷で膨れ上がった顔の人、道路に手を引きずって歩くように腕の皮膚がむけ垂れさがっている人、体中焼けただれ、赤黒くボロ着を纏っているように見える人々がいる。生きて動いている人々を感覚的に知ることはできたが、いたる処に転がるごとく黒焦げのさまに、白い歯をむき出し、あるいは白い眼孔を見開いているのは、あれはいった