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概要

gakuto

24い何だったのだろう。 あの一瞬の閃光が家を焼き、人間までも焼いたという認識は、まだできなかった。さながら現世の地獄であり、これを超える世界はないようにさえ思えたのであった。 屍を踏み超える現実に、自身が直面したのであったが、恐怖感はなかった。帰路を共にした学友と多く語ることもなく、誰が先導するでもなくお互いが前後を歩き、周辺を視野に入れながら沈黙のまま歩き続けた。 西練兵場は広々として、でこぼこした乾いた土肌だけが、何事もなかったかのように拡がっていた。白島町寄りに梢のない茶褐色をした幹だけの松林の一本に、寄り添うように静止したままの軍馬が一頭立っている。はち切れんばかりに膨らんだ腹には鐙あぶみだけが残っていた。 方角だけをたよりに逃げて行く道は、何処をどう歩いたのか常盤橋のたもとから三篠橋を渡って横川駅に辿り着いた。ここは、郷里へ繋げる駅であったが、無惨な駅舎があるだけで、動く列車もなかった。「長束の駅から列車が動いている」と誰かのいう言葉につられて急ぎはじめたが、灰かい燼じんと化した街から逃れる傷ついた人の群は、さほど広くない国道をいっぱいに拡がり長い列となって、よじるように連なって進んだ。 二輌編成のうす汚れた列車は、いつ動くとも判らないまま停っていたが、その車中は罹災した人々で溢れ、焦げた髪、火傷の肌、人の息、汗やほこりさえも匂う異常さであった。 宇津駅に着いた時はすでに夏の陽は落ち、何事もなく何も知らない暗い田舎のなまぬるい夜であった。 飯室の姉の嫁ぎ先に辿り着いた。 姉は、すでに今日の出来事を次々に知りはじめていた。私は、ここで、今日を信じられないまま静かな夜を過ごした。 そして、その翌日、父母のもとに帰った。父が母が私を迎えてくれた時、わずか、たった一日だけの出来事であったが、それは、とてつもなく長い道のりと忘却の日々からのように、はじめて十二歳の自分を取り