ブックタイトルgakuto
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gakuto
32タンの陰に垂れ下った三つ編みの、見覚えのある黒皮のベルト「アッ良ちゃんだ!!」上のトタンを撥ね除け兵隊さんに降ろして貰った。汚いも臭いもなく夢中でした。胸に名札がとの声に我に返りました。ボロ布の焼けた切端のかすかに読める名、人違いでした。 ゴメンなさい!ゴメンなさい!皆を助けてあげられなくって……。 今日も夜空を見上げ乍ら祈ります。せめて、父様、母様の側に皆一緒にいて欲しいと……、そうでなかったら余りにも淋し過ぎますもの、良太郎は自分の憧れの希望校、市中生となり爛漫と咲き誇る桜の下を颯爽と駆け抜け去った夢一杯の少年の姿が彷彿として浮かんで参ります。オシャレな妹、女学生だった玲子、父も母も皆若くあの日のまま綺麗な少年少女の儘、残された私十八才の乙女は老女となり「昔は物を思わざりけり。」と家族との楽しかった団欒の追憶の中に何時迄もしがみついています。私達は姉弟五人上三人が女、良太郎は始めての男の子、父の喜びは一入でした。弟の入学早々の教練の毎日に父がゲートルの巻き方を一生懸命指導し、登校前の弟の姿を点検して緩んだ紐を結び直してやり、満足気に見送る姿に後を向いた儘一寸手を上げる大人っぽい仕し様ぐさが、何故か浮かんで参ります。 十九年、私は長姉と共に横川の軍需工場に女子挺身隊に動員され後に宮島沿線、廿日市地御前国民学校に奉職、八月五日は日曜日でしたが戦時下の事休みはなく日直の為学校にこの日妹と弟が遊びに参りました。新米先生を冷やかす魂胆、何故か厳島にお参りにと云ふ事になりました。俗に云ふ虫の知らせだったのでしょうか。弟も毎日の労働の中のかってない休息だったのでしょうゆっくりとした時が流れて行く中、日頃温和しい人が、陽気に、私が心配した程饒舌に皆を笑わせました。 何時の間に読んだのか、倉田百三の「出家とその弟子」の中での自分の思いと人生観を語り私の好きな、三次達治の詩の「かえる日もなき古えをこはつゆくさの花の色」等、「紫陽花のもののふるなり母よ私の乳母車を押せ」と時かるく譜じ、私を喜ばせまし