ブックタイトルgakuto
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36 私は学徒動員により三菱重工業広島工場で働いていたが、米軍のB29と艦載機による本土空襲がいよいよ激しくなり、広島もいつ空襲されるか分らぬ状態となったので、広島工場の機械設備を広島県佐伯郡平良村の山地に疎開することとなった。それに伴ない私達の作業現場も同地へ移動した。 そして昭和二十年八月六日月曜日、私はいつもの通り作業を始めようとしたその瞬間、傍で一トン爆弾が炸裂したような衝撃を受け全員が地に身を伏せた。やおら身を起し眼に入ったものは広島方面の上空の雲が強烈な風で吹き飛ばされていく光景であった。 誰もが異常を感ずる中で半時間も経過した頃、引率教師から「直ちに市内に帰宅するよう」との指示を受けた。電車・汽車とも不通、海岸道路をひたすら市内に向けて歩くうちに焼け爛ただれて重なり合った死傷者を積み込んだトラックに何台となくすれ違い、いよいよ不安と焦りが募るばかりだった。 途中黒い雨に打たれながら六?七時間かけて市内入口の己斐に辿り着いてみると、市内は火煙に包まれて視界をさえぎり、ただならぬ事態の発生に愕然とした。 余よ燼じんがくすぶる場所に足を踏み入れたとき、焼き爛れた肌に敝へい衣いをまとい片眼に窓枠の桟さんが突き刺さった女性が髪をふり乱しよろめきながら私に助けを求めた。その形相はこの世のものとは思われず、私は必死になって背負い込み安全な場所へと運んだ。そのうち次々と罹災者が現われ苦しいのどの下から水を求める者、無言のまま放心状態で救いを求める人たちの救出に駆け廻った。阿あ鼻び叫きょう喚かんの巷をさまよいながら気が付けばまともな姿をした者は私だけだったのである。 既に日が暮れその夜は郊外の学友宅に寄宿、翌朝から我が家の焼跡を捜索のため入市したが見渡すかぎり焼野原と化し、黒焦げた屍体が至る所に累々と横たわって死臭と熱気で息苦しく、眼を覆うばかりの惨状は言葉では言い尽くせぬほど悲惨なものであった。 そこへ突然空襲警報が鳴ったので、私はとっさに身の隠し場所を探す間、ふと眼にした焼け崩れの防空壕に飛び込むなりうずくまった。暗やみの中、暫くして