ブックタイトルgakuto

概要

gakuto

39 弟を思う告欄で田中家具ＫＫ取締役・田中　　滋（二回生）、即ち御貴名が目に止まりました。　間違いでしたら御免下さい。　戦時中、平野町にお住まいでは御座いませんでしたでしょうか？　そして市中生で二級下の弟さんがいらっしゃいませんでしたでしょうか？　多分原爆で死亡していらっしゃると思いますが、若しそうでしたら、また御両親御健在であれば、弟さんのお話をいたしたいと思いますが……　右、甚だ唐突で御座いますが、お尋ねまで。　　　　早々　　×　　×　お葉書き有難うございました。私方、戦前平野町で家具製造していました。　今、こちらの方に住んでおります。原爆当日、弟は小網町で建物疎開作業中被爆死しました。父は亡くなりましたが、母は健在です。弟の思い出話うかがえれば幸いと存じます。　広島方面、お出かけの折はぜひお立寄り下さい。　　×　　×　拝復　お葉書を頂戴いたしました。此の三十余年、毎年夏になると気にかかっていた記憶の模糊とした部分が透明度を増して、ある感慨があります。　私、戦中平野町のお宅には二回ほどお邪魔しています。お母さんか、お父さんのどちらかにお会いしたかとも思いますが、お顔は勿論、背恰好等の記憶は全く御座いません。ただ弟さんは今も中学一年生の戦闘帽をかぶった少年のままですが、ハッキリと思い出せます。丸顔で両頬に笑窪のできる、私は背丈のあるほうですが、弟さんは中肉中背といったところでした。実は田中君という姓だけは憶えていて、名前の方がどうも憶い出せません。確かお兄さんと同じ一字名前ではなかったかという記憶もあるのですが―。　私は広島市も東部、駅の近所の荒神小学校より市中に入りましたが、住所もクラスも違った田中君と親交を結ぶ様になったキッカケについては、記憶がさだかではないのですが、確か私と同じクラスの白滝君が田中君の近所であって、彼を通じて知り合ったのではな