ブックタイトルgakuto
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49 兄の上着と防空頭巾 『お前もじゃ』と山田さんの字が添えてある。 その山田さんが、「おじさん、喉が渇いてカラカラなんです、水を飲ませてください…」片目をつぶされ、かすかに開けた無事な目に、願いを込めて父に言った。そこへ、看護兵が来た。祖父はとっさに「兵隊さん、こいつはうちの親類の者じゃが、今連れて帰るわけに行かんのです。江波へ連れて行ってくださいや!」祖父は山田君の顔を見たら思わずこんな嘘をつかざるをえなかったと後年語っていた。 「山田、しっかりしろ、今水を汲みに行ったでの、ところで、うちの浩を知らんか」「木村は…、あの木の…下…で…集合…して…おりました。…今朝、会って…話を、したば…か…り…で…す」山田さんは、見えぬ目を兄のいた方へ向け、声を、もう最後の声を、かすれ声でふりしぼって教えてくださった。「兵隊さん、よろしゅう頼みます。儂わしら、息子を探しに行かねばならんもんですけ…お願いします」兵隊さんに後を頼み、山田さんと別れた。山田さんはこれを最後に、亡き兄とともに、再び私たち家族の前に姿を現さなかった。 山田さんの教えてくれた付近には、数人の人々が倒れていた。爆風で倒れた巨石に下敷きにされ、下半身を焼かれた人もいる。その顔は苦痛にゆがみ、無残であった。 兄の担任の先生も、その傍へ倒れていた。四人で周りを探したが、兄の姿は見当たらない。ふと上を見上げた姉の目に、樹の上部分が焼けた松の下部分の枝に、見慣れた柄の防空頭巾と上着がつるされているのが飛び込んできた。兄のものでした。上着の北側に向いた部分は焦げ落ちていた。その松の下にある石のベンチに生徒たちが置いていた風呂敷包みの弁当行李が並んでおいてあり、兄のものも見つけられた。 ベンチの直ぐ北側に土塀があり、爆風や熱風を遮ったので無事であったのではと、後で皆が不思議がったことでした。 しかし、兄の姿は見つからなかった。土手から河原へかけて、数千人の学徒や先生が死んでいた。その遺体の間を探している内に、潮が満ちてきて、水辺で死んでいた人たちがフワリ、フワリと浮かび流され始めた。こうなると、もう兄を探すすべもない…。こうし