ブックタイトルgakuto
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51 六十年目の夏に六十年目の夏に林 玲子 涼しい木陰の恋しい季節となりました。 あなたが逝ってしまったあの夏の日から、六十年。今年も、夾竹桃の花が広島の街を彩っています。 美智子さん 私があなたのことを知ったのは〈流燈〉に寄稿されたあなたのお母様の手記でした。「思い出」という題で記されたあなたへの手紙を読んだとき、わたしは溢れる涙をとめることができませんでした。 あの日…… それは、戦争の最中憧れの市女に入学して二年目の夏のことでしたね。 オカッパ頭のあなたは、三年生になったら髪の毛を分けられるのが楽しみで、時々鏡の前でそっと左に分け目をつけていたのよね。そんなあなたの姿に、お母様はどんなにかあなたのご成長を楽しみになさっていたことか。 運命の八月六日の朝、前日に続いて材木町の建物疎開に動員されて、そのまま帰宅することのなかったあなた…… ご両親はあなたの無事を願い祈られたことでしょう。 白い襟カバーのセーラー服にもんぺ、お父様の地下足袋を履き水筒と防空頭巾を斜めにかけて家を出たあなたは、七日になっても八日になっても九日になっても帰ってこなかった。大怪我を負い入院なさったお母様はひたすらあなたの帰りを待ち続けられました。お父様は、毎日毎日焦土のなかを探し回られたことでしょう。 恐ろしい残留放射能が漂う地獄絵図と化した、広島の街を。 熱風や火の手から逃れようと川に入って海へと流された人。黒焦げのお弁当箱だけを残して逝った人。生