ブックタイトルgakuto
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61 警報なき空隊に整列して朝礼の始るのを待っていた。地下足袋を履いてゲートルを巻き半袖の白シャツに帽子をかぶり右手にスコップを持って中央より少し東側の前から五番目あたりに並んで先生の出て来るのを待っていた。暑い太陽の照る中で職員会議が長引き先生がなかなか出て来ないので、友達と雑談をしていた。(後日になって解った実情は、若い職員が四?五人毎日の作業があまりにもきついので、欠席していてその引率する班を誰が指揮するのかとのことで、会議が長く延びていたそうである)我々は暑い中をグランドに立って待たされていたのであるが、その職員会議がはやく済んで作業に出発していたら当日の現場は宝町方面であったので、市の中心地に近くなり被害もより増えていたとも考えられる。 原子爆弾のことを戦後に広島ではピカドンと言ったものである、ピカーと光ってドーンと爆弾が破裂したからそう呼ばれていたのであるが、私の体験した事実はそうではないのである。ピカーッと閃光が走ったぐらいではない、グランドに整列していたハッと気付くと目の前いちえんが全部火の海となり、左前方に講堂が建っていた辺りは炎の色が濃く、前方南側の校舎の方も赤とオレンジ色の混合したような濃いさで辺り一面が火の海であり、手の指を見ると両手を十センチ程に近付けるとようやく手の平と指の形がわかり、この間、火の海の中で何十秒の間も息は普通に出来て特別に息苦しくも感じられない、その瞬間はガスコンロに火を点けたように辺り一帯がオレンジと赤を混ぜたような色の火の海であった、太く鈍い音が地の底からズドーンと聞こえ耳に手をおそうような大きい音には感じられなかった。そこで火に目を遣られるといけないと思って両手で目を押さえて前に伏せた。火の海であった炎の中での時間は、前を向き左の建物を見て首を右に廻して西側の建物を見て、又、正面を向き手を眺めて伏せるまでの何十秒間は辺り四方八方は全部が火の中であったので、その熱で肉が焼けて火傷になるのはいた仕方がないが、その時は熱いとは感じなかった。そして地面に伏せると今度は、竜巻の中に居るように真っ暗になり周り一面何んにも見えない状態で渦