ブックタイトルgakuto

ページ
76/326

このページは gakuto の電子ブックに掲載されている76ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

gakuto

62の中を五?六歩程度地上を泳ぐように足をかわした記憶があり爆風の中を吹き飛ばされて行ったようである。その後何分か気を失っていて我に返って気が付くと、暗い中から辺りが夜明けの如く少しづつ明るくなりグランドの南側で校舎のそば辺り迄さつま芋が植えてあったが、その上に自分は倒れて居たことに気が付いた、整列して立っていた所から爆心地は西北の方角であるから南に約十五メートル程飛ばされていたと思われる。木造校舎はすぐ横に倒れていて瓦礫が散乱しその下敷きにならなくてよかったと思った。方々で泣き声が聞こえて来たが自分は、こんな事で泣く気にはなれないので、死んでたまるかと思い死んでいるか生きているか試してやろうと思い顔を上に向けてオーイと大きな声を出してみた、誰を呼ぶでなく、ただ、ライオンが原野で吠えるのと同じ気持ちであった、すると自分の耳に自分の声が聞こえて来たので、よし、死んではいないと気を強くして立ち上がってみた、ふと左手を見ると親指と人差し指の間の皮膚が焼けて垂れ下がっている、右手を見るとこれも同じように皮が剥げて下がっている、垂れている反対側の指で皮をちぎり取って地上に捨てる、手の甲を指で押すと丁度焼き芋かジャガイモの皮付きを煮てその上を押すとつるりと皮が剥げるのと同じようであった。 倒れていた所から一メートル先は校舎がずらりと潰れており辺りを見回しても友達の姿は誰も見当たらないので、自分は長く気を失っていたのであろうと思った、勿論、帽子も手に持っていたスコップはどこに飛んで行ったのかわからない。 下半身はズボンを履いていたので怪我をしていなかった、瓦礫を踏み越えて電車通りに出ると一般の人が皆んな怪我をして思い思いの方角に歩いていて、比治山橋の東詰のすぐ下流に川の下に降りる石段があって多くの人が行っていたので、無意識の内につられて下におりた。見ると川の水は干潮で岸の砂浜に負傷した女学生や婦人がたくさん避難して座ったり、佇んでおり、水の中には多くの人が腰のあたり迄浸かって何やら言っており、男性は老人が多くて火傷して痛むので水に浸けて居るのであろうと思ったが、自分として