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概要

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63 警報なき空はそんな気にはなれないので直ぐに道路の上にあがり、早く家に帰りたい、そうしようと頭に浮かび決心した。その時、橋の横の電車軌道のレール上五メートル程前を学校の方角から生物のハムさん(杉田先生)が髪を白く焦がして右手で頭を押さえながら歩いて横断されており、その五メートル程後から福岡学校長が額の方から少し血が出ているようであったが歩いておられ、自分でもよく解らないのであるが、どうしても挨拶の声を掛ける気持ちになれないのが不思議であった、通行人はまばらであったが前日の訓話が頭に残っていた事と家に帰る方角が違うし、目線が違っていたからと思われた。 アメリカがドイツのV一号かV二号を盗んで、広島に落としたのであろうとその時は思った。 右に向かって行く人、左に行く人、各自声も出さないでそれぞれ好きな方に向かって歩いており、太陽の光線が強く火傷がぴりぴりと痛く感じだしたので、泣く気にはならないし、こんなことで負けてたまるかと精神を入れ、先ずは病院に行って傷に薬を付けて貰おうと思い電車通りを宇品方面に向かって歩いた。友達や知人に全然出会わないので、皆んなどこに行ったのであろうかと思い辺りを見ながら一人で皆実町を過ぎて、以前この付近に病院があった記憶がしたので、少し行くと左側にようやく共済病院が見えた、(現在の県病院の近く)ここだ、よかったと思い近付くと病院の建物の外に机と薬を出して若い医者と白衣を着た看護婦二人が忙しそうに負傷者に薬を付けていた。自分の傷も太陽に当たり腫れてひりひりと痛んできたので、ここに来てよかったと思いその列に並ぶとようやく五番目に順番が来て、応急手当の白い粉薬を火傷している顔と両手に付けてもらい、白い包帯で目の所だけ出して顔にぐるぐると巻いてもらった。上半身の前面と両腕、両肩、胸と喉をやられていたので、足に巻いていたゲートルで白いシャツの上から胸のあたりをグルグルと肩から交互に巻いてもらい巻き終わった頃、丁度その時に大粒の雨がポツリポツリと降りだした。そこの斜め十五メートル程前に長い防空壕が有ったので、急いで走って行き、はいると私の後から二人