ブックタイトルgakuto
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gakuto
64の中年女性四十歳前後で少し肥えていて姉妹らしきよく似た丸顔であったが、雨が降り出したので治療を受けずに入って来たとわかった。尻のあたりはびしょびしょに火傷がひどくすぐ左隣に座られた。髪は茶色に焼け焦げてがっそうで顔の前に垂れ下がっていた。 外は雨がよく降っていたとみえてよく濡れていた。後にこれが黒い雨であったと知り、濡れなかったので運が悪い中で良かったとほっとした。 しばらくすると雨の降るのが止み、入り口の方の人から外に出て行ったので、後に続いて外に出てそれぞれ左右に散って行った。自分も我が家に急いで帰ろうと決心した。そこで広島駅に近づこうと思い病院の位置から電車通りより近道を通ろうと裏道を選び翠町から東に向かって歩いた。ところが民家がだんだんと少なくなり畑の中に点々としか家がなく行方の正面に赤レンガの倉庫が見え、これは道に迷ったのではないかと思いながら進むと、畑の中に四つ角があって十メートル程過ぎた左側に田舎風の家が道路から少しはいった所にあって、中年の男性二人と婦人三人がおられたので、「広島駅に行くにはどちらに行けばよいのですか?」と尋ねると「どこまで帰るのか」と言われ「呉線の坂迄帰ります」と答えると「汽車賃が無かろう」と男の人から五十銭硬貨を戴き、道を教えてもらい有り難く感謝した。当時の汽車賃は四十二銭であった。その家は右側に二階建の納屋が西向きに隣接していて農家と思われた。被害は少ないと見え壊れた箇所が目立たないようであった。庭には大きな松の木が三本直幹で電柱程の高さがあり、その手前に大きなモクセイの木が二本植えてあった。 厚くお礼を言って、教えて貰ったとおりに道をそこの角から西に向かって行くと広商の学校の横に出たのでひと安心して、やれやれと思い近道をするつもりが結果は遠回りしたので大失敗であった。そこで電車通りを比治山橋から駅方面に歩いて行くと両側の家は倒壊し、方々で火災が発生しており電柱は皆な横に倒れ、電線は蜘蛛の巣を破ったように四方へ垂れ下がって前に進むのに上を飛び越えたり下を潜ったりして、太陽と燃える炎で熱い中を、なるべく中央を通るよう