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gakuto
79 昭和二十年八月六日をのぞかせながら、よちよちと二歩三歩、すぐよろっと転んで、後は笑いながら這って来る。あごのあたりに小さなおできが出来ているのが気になった。母は妹二人を田舎へ残しているので、今朝早く今治行きの船でそそくさと帰って行った。今、船はどの辺だろう。思いは母の許へ、故郷へ。 ちょうど八時十五分、朝礼のベルが鳴りひゞく。私は「ハッ」と立ち上り木陰をとび出した。「ピカッ」。異様な光り。「アッ」と思った瞬間、目の前がまっくらになった。何も見えない。どうしたのだろう。宙をさまよっている様な気持ち。ものすごい風が吹き抜けて行く。顔に何かがおおいかぶさるようだ。息も出来ない。苦しい。両手で払いのけようと必死にもがく。しかし体の自由がきかない。全身が恐怖にふるえる。闇の中に自分唯一人。目も見えず、耳も聞こえず、声も出ない。何とも云いようのない恐ろしさ。 次の瞬間、真っくらな闇の世界へ、まっさかさまにどんどん、どんどん落ちて行くような気がした。恐ろしさにおののきながら、必死に何かをつかもうとする。だが宙をつかむだけ。そのまゝ奈落の底へと落ちて行く。 私はあの時の孤独な恐ろしさは一生忘れない。どの位の時がたったのか? 気がついた。 体が思うように動かない。腰のあたりから足の方が何かの下になっている。やっと這い出しあたりを見た。見渡す限り灰色の空が重くのしかかり、昼間であろうにうす暗い。二階建ての校舎が跡形もなくくずれて、見るかげもない。校庭のはしからはしまで一目で見える。しかし、広い広い荒野のように思えた。寄宿舎がまっ赤な炎に包まれ乍らくずれ落ちて行った。一体どうしたというのだろう。みんなはどこにいるのだろう。唯々呆然と坐り込んだまゝ、その光景を眺めていた。 遠くの方で声がした。片山先生だ。頭から顔まで血だらけになりながら、生徒達を呼んでいられる姿が、ぼんやりと見えた。今までどこにいたのか。一人又一人、ぼろぼろの黒い影がよろよろと立ち上り、先生の方へ歩いて行く。それが誰かわからない。私も立ち上